Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

僕が愛しただったか君を愛するだったかなんだったかよくしらんけどそういう話

真面目にタイトルを考えろよな。

最近読書の記事が増えているのは、漫然と読書をしているからというだけで他意はない。

今日は最近散歩して入った本屋でプッシュされていた本の話をしよう。あの本屋、品揃え悪いくせに店長の趣味なのかやたらSFのPOPが充実してるんだよね。でも日本人作家ばかりなんだよなーきっと売れるからなんだろうなとか思いつつ。

『僕が愛したすべての君へ』および『君を愛したひとりの僕へ』を読んだ。

2冊セットで読むべきだというので本屋のPOPに乗せられて同時に買ってみた。僕はたまにすごくミーハーになることがある。普段は見向きもしないくせに、そういう日は「〜〜が売れています!」とか、朝テレビでやってたラーメンとかを食べたくなってしまう。その日もそういう日でPOPだけみて買った。ついでに「ディック最高傑作!」みたいなポップがあった『スキャナー・ダークリー』も買った。僕はミーハーなのだ。スキャナー・ダークリーはまだ読んでいないけれど。

並行世界というものが存在する世界で、アイデンティティの拡散など様々な側面で既存の常識が通じなくなった時に主人公の「高崎暦」はどう乗り越えていくのかが『僕が愛したすべての君へ』の内容で、どちらかというと「陽」の物語だ。表紙も明るい。同じ人物だが、別の世界で全く異なる生き方をしたのが「日高暦」*1で、こちらは前者とは違う困難に直面し自分の目的のための人生を歩むことになる。それが『君を愛したひとりの僕へ』の内容で、「陰」の物語だ。表紙もまるで黄昏時のように暗い。

簡単のために、ここでは[1]を『僕が愛したすべての君へ』を表すものとし、[2]を『君を愛したひとりの僕へ』を表すものとしよう。

僕が愛したすべての君へ

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

  • 作者:乙野四方字
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/06/23
  • メディア: 文庫

僕は[1]を最初に読んだ。正直、これだけ読むと普通の話だ。読了した時に「面白かったなー」とは思うけど、それまで。いろいろあったけど、良い人生だったというシンプルな物語。「陽」の物語だと表現したが、全体的にポジティブでこれだけ読むと本当にアンバランスだ。ただこの作中では絶対に意味がわからないことがあって、それをわかるためには[2]を読まないといけない。なるほどだから2冊セットなのかなどと思う。

テーマはなかなか王道だ。並行世界の自分は果たして同じ自分なのかとか。そして解決も「なるほどなぁ」という感じで気軽に楽しめる。前回読んだSFが『女王の百年密室』とかイーガンとかディックとかだったので、とにかく頭を使わないで読めるSFもこれはこれで面白いなどと思っていた。でも第二章だけはただのラブコメだ。SFをしろと言いたくなったが、SFできる状況にないのもまた確かなので許す。

どうでもいいけど、主人公たちせめて修士課程くらいは出たほうが良かったんじゃないかと思う。あ、僕が言えることじゃないですか……

君を愛したひとりの僕へ

君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-2)

君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-2)

  • 作者:乙野四方字
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/06/23
  • メディア: 文庫

打って変わって、「陰」の物語だ。物事には光と影があるし、陽の当たる場所があれば陰がさす場所もある。『白夜行』の「ホワイトナイト」は『幻夜』で潰れてしまったし、「陽」だけでは生きてけないのだ。ん?なんの話だ。

[2]では最初から最後まで幸せになれない暦くんが描かれる。救いのない話かと思うかもしれないがそうでもなく、希望もある話だ。

[1]を先に読んだので、[2]で[1]の色々は氷解したが、[2]からは[1]のことがわからないので、やっぱりどちらを先に読んでもいいと思う。僕は読み終わってみれば[2]から[1]の流れのほうが好きかもしれない。

もし映画化とかするならどうするかな、これは相当難しいだろうなと想像がつく。

雑感

ラフに楽しめるSF小説で、2冊読んで完成するところとか昔からある手段だけどやっぱり面白いので、最近重い難しい本ばっか読んでて疲れたって時に読むとちょうどいいんじゃないでしょうか。少なくとも僕にはちょうどよかった。

*1:苗字が違う理由も作中でわかる。